とよはしまちなかスロータウン映画祭 スピンアウト › 映画スイーツ・コーヒー › アポロコーヒーへの潜入(2)
2011年10月19日
アポロコーヒーへの潜入(2)
<前回までのあらすじ>
パーフェクトなミッション遂行ぶりで他の追随を許さず「エーススパイ」の名を欲しいままにする英国諜報部員008。
だが、くくむカフェへの潜入に続いてアポロコーヒーワークスでも、まだ販売期間に入っていない映画祭メニューをオーダーするという失態を演じてしまう。
今にもプライドが音を立てて崩れ、膝を折りそうな008にさらにアポロのマスターが追い討ちをかける。
客を装おって潜入したはずの008のその正体に言及したのだ。
シリーズ史上最大のピンチが襲う!
危うし! 008!
***********

マスターは言った。
「お客さん、もしかして何とかローズさんじゃありません?」
その「何とかローズ」という言い回しにワタクシの顔は思わず引きつった。
その呼び方は間違いとは言えず、かといってどストライクとも言えずビミョーなむず痒さを感じさせるものだった。
例えば「尻」のことを「脚のとっても付け根」とでも言っているような遠回り感があった。
正体がバレたショックを感じたのはそのむず痒さが全身に走った後だった。
「いっ、いかにも」ワタクシは答えた。「いかにもワッ、ワタクシは何とかローズだ」
「前にも一度来たことがありますよね?」
「Σ( ̄□ ̄;)……いっ、いかにも。そっ、その時にも気づいていたの?」
マスターはうなずいた。
確か昨年の今頃だったろう、映画祭のイベントでこちらの店のことを知り、一度だけ来店したことがあった。
しかしその時はコーヒーを飲んだだけでマスターと言葉を交わすこともなく店を後にしていたのだった。
「マスター、ワタクシの正体が何で分かったのだね?」
「ブログにあんなに出てちゃあね。顔も出てるし」
ぬぬぬぬぬ(-_-;)
マスターがコーヒーを淹れている間もワタクシの心の波立ちは鎮まらなかった。
……オーダー間違えた、正体バレた、スパイ失格、ライセンス剥奪、ボンドガール解散…………
マスターはペーパーフィルターを折り、豆を入れ、象が鼻を持ち上げたような形をした細い注ぎ口のポットで湯を注いだ。
「まあこれでも飲んで落ち着いて」
マスターはワタクシの前にカップを置いた。

口をつけると香り深いコクとほのかな苦みが広がった。
暖かいコーヒーを飲みながら映画祭のパンフレットを見るともなしに見ていると、その中に「椿三十郎」の文字が目に止まった。
黒澤明監督のその作品は映画祭の上映作品ではないが、それをテーマとした酒を出す店があったのだった。

「本当に良い刀はサヤに入っているものだ」
最後のシーン、 「斬れる者」と一目置いていた相手を斬った後で、椿三十郎はそう言う。
「斬れる者同士が戦うと、どちらかが死ぬ。それはつまらん」
みたいなやり取りもある。
翻って、今のこの状況を考えると、店内には斬れるエーススパイと斬れるコーヒー店のマスターがいた。
椿三十郎の言葉に従うならば、正体がバレたからと言って、エーススパイのプライドを保つために、ここでマスターをねじ伏せにかかるようなことはするべきではない。
例えばコーヒーカップの底にミニカーを沈めて、こんなものが入っていたぞ!などと騒ぎ立てるようなことはするべきではない。
それはつまらぬことだ。
ここは、いくらワタクシの刀が切れ味鋭くともサヤに納めておこう。
いや切れ味が鋭い刀であるからこそサヤに納めておくべきなのだ。
映画祭のパンフレットの中に偶然見つけた「椿三十郎」の文字によりワタクシはふだんのスーパークールな状態に自分自身をリセットすることができた。
おそらくは「椿三十郎」の文字、それからマスターが丁寧に淹れてくれたコーヒーによって。
最大のピンチと思われた状況をワタクシは自らの強い自制心によってクリアしていた。
フッ。
ワタクシ達は斬り合うことなく軽い世間話をした。
「マスター、ふだんはワタクシのコーヒーはボス・ブラックだよ」
「それってどんな味だったっけ?」
ワタクシは豆を挽いてもらい、それを保存する缶まで購入して店を後にした。

アポロコーヒーワークスはマスターと同じように、店自体がむやみに斬りにかからないサヤに収まった店だ。
もちろん刃をギラつかせた攻めを真骨頂とするカフェもあるだろう。
が、基本的にワタクシ達はそういう場に、激しい生産活動、というよりむしろ息を抜くために足を運んでいる。
スパイならずとも独り静かに自分自身の中に沈む時間が時には必要だろう。
自分にとってそんな場所にしておきたいと思う場所を見つけたから、あるいは以前にそこを訪ねた時、ワタクシはそのまま店を出たのかもしれなかった。
今回、マスターに顔が割れても、しかし、それは大した問題ではないだろう。
ワタクシはそこを再訪することだろう。
細い道を入った住宅街の中の、少し分かりにくい場所で、静かにかぐわしいコーヒーの香りを立てる店を。
そう、サヤ収まった刀のような店を。
だってワタクシは
今回の失敗を自らの戒めと教訓とすべく

Tシャツまで買ってしまったのだからね v(^-^)v
※次回予告
最大のピンチを潜り抜けた008にまた新たなミッション依頼が。
ピンチの後にチャンスあり(#^.^#)
パーフェクトなミッション遂行ぶりで他の追随を許さず「エーススパイ」の名を欲しいままにする英国諜報部員008。
だが、くくむカフェへの潜入に続いてアポロコーヒーワークスでも、まだ販売期間に入っていない映画祭メニューをオーダーするという失態を演じてしまう。
今にもプライドが音を立てて崩れ、膝を折りそうな008にさらにアポロのマスターが追い討ちをかける。
客を装おって潜入したはずの008のその正体に言及したのだ。
シリーズ史上最大のピンチが襲う!
危うし! 008!
***********

マスターは言った。
「お客さん、もしかして何とかローズさんじゃありません?」
その「何とかローズ」という言い回しにワタクシの顔は思わず引きつった。
その呼び方は間違いとは言えず、かといってどストライクとも言えずビミョーなむず痒さを感じさせるものだった。
例えば「尻」のことを「脚のとっても付け根」とでも言っているような遠回り感があった。
正体がバレたショックを感じたのはそのむず痒さが全身に走った後だった。
「いっ、いかにも」ワタクシは答えた。「いかにもワッ、ワタクシは何とかローズだ」
「前にも一度来たことがありますよね?」
「Σ( ̄□ ̄;)……いっ、いかにも。そっ、その時にも気づいていたの?」
マスターはうなずいた。
確か昨年の今頃だったろう、映画祭のイベントでこちらの店のことを知り、一度だけ来店したことがあった。
しかしその時はコーヒーを飲んだだけでマスターと言葉を交わすこともなく店を後にしていたのだった。
「マスター、ワタクシの正体が何で分かったのだね?」
「ブログにあんなに出てちゃあね。顔も出てるし」
ぬぬぬぬぬ(-_-;)
マスターがコーヒーを淹れている間もワタクシの心の波立ちは鎮まらなかった。
……オーダー間違えた、正体バレた、スパイ失格、ライセンス剥奪、ボンドガール解散…………
マスターはペーパーフィルターを折り、豆を入れ、象が鼻を持ち上げたような形をした細い注ぎ口のポットで湯を注いだ。
「まあこれでも飲んで落ち着いて」
マスターはワタクシの前にカップを置いた。

口をつけると香り深いコクとほのかな苦みが広がった。
暖かいコーヒーを飲みながら映画祭のパンフレットを見るともなしに見ていると、その中に「椿三十郎」の文字が目に止まった。
黒澤明監督のその作品は映画祭の上映作品ではないが、それをテーマとした酒を出す店があったのだった。

「本当に良い刀はサヤに入っているものだ」
最後のシーン、 「斬れる者」と一目置いていた相手を斬った後で、椿三十郎はそう言う。
「斬れる者同士が戦うと、どちらかが死ぬ。それはつまらん」
みたいなやり取りもある。
翻って、今のこの状況を考えると、店内には斬れるエーススパイと斬れるコーヒー店のマスターがいた。
椿三十郎の言葉に従うならば、正体がバレたからと言って、エーススパイのプライドを保つために、ここでマスターをねじ伏せにかかるようなことはするべきではない。
例えばコーヒーカップの底にミニカーを沈めて、こんなものが入っていたぞ!などと騒ぎ立てるようなことはするべきではない。
それはつまらぬことだ。
ここは、いくらワタクシの刀が切れ味鋭くともサヤに納めておこう。
いや切れ味が鋭い刀であるからこそサヤに納めておくべきなのだ。
映画祭のパンフレットの中に偶然見つけた「椿三十郎」の文字によりワタクシはふだんのスーパークールな状態に自分自身をリセットすることができた。
おそらくは「椿三十郎」の文字、それからマスターが丁寧に淹れてくれたコーヒーによって。
最大のピンチと思われた状況をワタクシは自らの強い自制心によってクリアしていた。
フッ。
ワタクシ達は斬り合うことなく軽い世間話をした。
「マスター、ふだんはワタクシのコーヒーはボス・ブラックだよ」
「それってどんな味だったっけ?」
ワタクシは豆を挽いてもらい、それを保存する缶まで購入して店を後にした。

アポロコーヒーワークスはマスターと同じように、店自体がむやみに斬りにかからないサヤに収まった店だ。
もちろん刃をギラつかせた攻めを真骨頂とするカフェもあるだろう。
が、基本的にワタクシ達はそういう場に、激しい生産活動、というよりむしろ息を抜くために足を運んでいる。
スパイならずとも独り静かに自分自身の中に沈む時間が時には必要だろう。
自分にとってそんな場所にしておきたいと思う場所を見つけたから、あるいは以前にそこを訪ねた時、ワタクシはそのまま店を出たのかもしれなかった。
今回、マスターに顔が割れても、しかし、それは大した問題ではないだろう。
ワタクシはそこを再訪することだろう。
細い道を入った住宅街の中の、少し分かりにくい場所で、静かにかぐわしいコーヒーの香りを立てる店を。
そう、サヤ収まった刀のような店を。
だってワタクシは
今回の失敗を自らの戒めと教訓とすべく

Tシャツまで買ってしまったのだからね v(^-^)v
※次回予告
最大のピンチを潜り抜けた008にまた新たなミッション依頼が。
ピンチの後にチャンスあり(#^.^#)
Posted by 映画祭スピンアウト部 at 18:00│Comments(3)
│映画スイーツ・コーヒー
この記事へのコメント
ほぉぉぉ~~~
チャンスねぇ~~~(-。-)y-゜゜゜
稼がせてもらうぜ!!!
チャンスねぇ~~~(-。-)y-゜゜゜
稼がせてもらうぜ!!!
Posted by Natsuko Garden
at 2011年10月19日 21:00

ものは考えようって
ポジティブになれる
物語でしたね〜( ´艸`)
ポジティブになれる
物語でしたね〜( ´艸`)
Posted by Natsuko Garden at 2011年10月20日 02:01
>Natsuko Gardenガールさんへ
>ものは考えようって
>ポジティブになれる
>物語でしたね〜( ´艸`)
ただコーヒーを飲んだだけの物語と言われても仕方ないがね( ̄ロ ̄;)
>ものは考えようって
>ポジティブになれる
>物語でしたね〜( ´艸`)
ただコーヒーを飲んだだけの物語と言われても仕方ないがね( ̄ロ ̄;)
Posted by 008 at 2011年10月23日 12:10